現在小学4年生のレイは、自閉症スペクトラムやADHD、学習障害など、複数の発達特性を持っています。
小学生になり、毎年5月に行われる運動会の練習の時期になると、下校後に脱水症状や熱中症で具合が悪くなるようになりました。
レイはどうやら「喉が渇く」という感覚が極端に鈍いようです。
これは「感覚過敏・鈍麻(極端な敏感さや鈍感さ)」という、自閉症スペクトラムの子が多く併せ持つ特性の現れ方の1つです。
今回は、この「喉が渇く」感覚の鈍いレイに、どうにかして水分摂取をしてもらえるよう工夫したお話です。
水分摂取ができていた保育園時代
保育園の頃は、熱中症になったことは一度もありませんでしたし、先生から水分摂取が大変だと言われたことも、ありませんでした。
一定の時間毎に先生から園児に呼びかけて、お茶の入ったコップを配り、皆で一斉に飲んでいました。
そして与えられたコップを空にして返さないと、遊びを再開できないルールでした。
このスタイルだと、問題なく水分摂取ができていたのです。
小学校での息子(レイ)の様子
保育園時代は、問題なかったのですが、小学校に入ると水分補給をする機会が減り、熱中症の予兆らしき症状を訴えることが多くなってきました。
1、2年生の頃は、毎日連絡帳で先生に「お茶を飲むよう声をかけてください」とお願いしてみたりもしましたが、それでも水筒にお茶を半分くらい残して下校してきて、頭が痛いなどと体調不良を訴えてくることが多く、とても悩みました。
いくら熱中症の怖さをこんこんと諭しても、耳に入りません。
具合が悪くなると、返って聞く耳を持たず、融通が効かなくなり、若干パニック状態になるようでした。発達特性が濃くなるよう感じました。
親としては、熱中症はとても怖いので、なんとかして飲んで欲しいのですが、口に入れようとしても拒むし、揉み合いの喧嘩になってしまったこともありました。
仕方なくアイスや果物などを与えたり、大好きな味噌汁を多めに摂らせたりして、なんとかしのぎました。
真夏になると流石に暑いので、自然と「喉が乾いた!」と言って飲むようになるのですが、毎年この中途半端に暑くて大量に汗をかく、4~6月の運動会練習時期が大変でした。
3年生の頃に熱中症になる
3年生になり、支援級の3年生は3名から10名へと急に増え、それに合わせて更に新しい先生が増えました。それまで静かだった支援級が、大人数で騒がしく混乱状態になりました。
レイの担任もバタバタと変わり、新学期早々担任が2度も変わりました。
クラスの環境も大きく変わり、国語算数のレベルもボリュームも一気に上がり、疲れたと言うことが増えた時期でもありました。
そんな状態なので、毎日連絡帳でお茶を飲むよう声かけのお願いをしても、水筒はほぼ満タンで帰ってくるような状態でした。
そして飲みたくない理由として「お茶もお水も、美味しくない」と言うようになりました。
普通なら、喉が乾いていれば、水でも美味しく感じるはずなのですが、喉の渇きを感じていないレイは、
「飲みたいと思わないし、美味しくもないものをなぜ飲まなければいけないの??」と思うようでした。
そして、ついに家で嘔吐までするようになり、完全な熱中症になりました。このままでは命が危険だと感じました。
そこで比較的飲みやすいスポーツドリンクを許可してもらえるよう校長にお願いしてみたのですが、「お茶と水以外はNG」と言われてしまいました。
命を落としては仕方がないので、試しに実際に教室へ様子を観に行ってみることにしました。
そこで、確かに先生は声をかけてくれているのに、全くお茶を飲めていない現場を目の当たりにし、やっと飲めない理由が主に2つあることがわかりました。
息子が水分補給をできない2つ理由
理由その1:適量が見た目でわからない
まず、声をかけられて水筒に口をつけても、ゴクゴクと飲めておらず、ちょっと舐めるだけでした。
もっとたくさん飲みなさいと言っても、また舐めるだけです。
けれど、本人としては「ちゃんと」飲んでいるつもりでした。
理由その2:切り替えが悪く、忘れやすい
ADHDを持っていて、忘れっぽいレイは、声をかけられてお茶を飲もうと机へ向かう時に、友達や別の先生から話しかけられると、飲むことを忘れてしまっていました。
突然たくさん入級してきた生徒たちの対応に、先生方は追われており、ひと声かけるだけで精一杯のようで、レイがたくさん飲むまで、側でついて見ていることなど、できない様子でした。
そこで、改善策を考えました。
息子に水分補給をさせるために実践した工夫
工夫その1:「適量」を視覚的に支援
レイの水筒は、多くの小学生が使う直飲みボトルです。
しかし、レイにとっては、これではどれだけ飲めたのかが目に見えてわからないのでした。
まずはここから改善してみようと思いました。
コップ付きの水筒もありますが、忘れやすく不器用なレイがうまく使える気がしなかったので、目に見えて飲む量がわかるよう、小サイズの飲むヨーグルトの空きボトルを使ってみることにしました。
100mlのボトルを10本用意して、これで1リットルです。
大好きだったスプラトゥーンというゲームのイカの絵を描いて、ボトルに貼り、小ぶりの保冷バッグに入れて、水筒代わりに持たせました。
「飲む時は必ず、1本を空にするんだよ」と言うと、あっさりとその100mlを飲み干すことができました。
そして、いつ飲むのかも明確にした方が良いと思い、ボトルの蓋に「○時間目」などと飲むタイミングを書きました。
工夫その2:どうしても忘れてしまうので、声をかける
ここまでしても忘れてしまうことが多々あったので、最終的には私が毎日声かけをして、飲み干すまで見届けることにしました。
廊下で一般級と支援級を往復するレイを待ち構えて、毎時間終わりに声をかけます。
当然ながら、
「なんでレイのお母さんが居るの?」「なんでそんな入れ物なの??」と生徒が話しかけてきます。
その子たちに、
「レイは喉が乾かなくて、困っているんだ。だからどれだけ飲んだのかが、ひと目でわかるように、この入れ物にしたんだよ。
レイに会ったら『お茶飲んで!』と声をかけてくれないかな?」とお願いしました。
皆、意外にも快く引き受けてくれて、ある意味先生よりも積極的に、世話焼きや報告をしてくれました。
私も仕事があり、1日中付き添ってはいられなかったので、お友達には本当に助けられました。
人と違うことをしていじめられるのではなく、むしろ皆に応援してもらえるのは、本当に有り難かったです。
これでなんとか、運動会を無事に終えることができました。
ようやく、自分でお茶を飲めるようになった!
運動会が終わってひと段落すぎた夏休み前に、レイは燃え尽きるように不登校になりました。
ですがこの後、不登校・ホームスクーリングという彼に合わせられる環境下で、1年ほどで周りからの声かけがなくとも、自ら水分摂取ができるまで成長します。
やったことは、放課後デイサービスの先生と相談しながら「飲みたいと思うものだけを飲ませて見守る」ということだけでしたが、1年ほどで自ら進んで麦茶を飲むようになりました。
途中、頭痛がするたびに慌てて飲むということを繰り返し、親としては息子の健康が心配で心の葛藤がありました。しかし、息子の自由にさせているうちに、本当に一年ほどでお茶が飲めるようになり、安心しました。
適度なストレス量の元、トライアンドエラーを自分の咀嚼できるペースで繰り返す中で、学ぶことができたのかな、と思いました。
これからも、レイの自立に繋がる学びをサポートしていきたいと思います。
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