私の長男は現在小学校3年生ですが、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)とADHDを持っています。
幼少の頃からの彼の目立った特徴の一つとして、「空気が読めない」というものがあります。これは発達障害の典型的特徴と言ってもいいかもしれませんね。
最近私は、「空気の読めなさ」が改善できるかも・・・と思い、息子に料理をさせてみることにしました。
料理と発達障害の「空気の読めなさ」って何か関係あるの?
と思う人もいるかもしれません。
私は、料理とは食とのコミュニケーションだと考えています。なので、料理を通じて「空気の読めなさ」を改善できるのでは?と思ったのです。
まだ始めたばかりで効果を実感できるまでには至りませんが、料理は少なからず息子に良い影響を与えています。今回は、そんな私と息子の新しいチャレンジについて紹介していきます!
空気の読めない息子の状況
息子のコミュニケーションは、まさに一方通行の一言に尽きます。
相手が自分の投げかける話題に興味があるか、そもそもその話題の内容についていけるのか、お構いなしに、自分の話したいことを機関銃のようにまくしたてます。
例えば、息子の好きなゲームの話を私(=母親)にしてくる時。
私はそのゲームの事を詳しく知らないし、正直そんなに興味もないのですがまるで「そのゲームのファンで内容を熟知している人」に対する話し方で話しかけてきます。
「ねぇお母さんきいて。〇〇(ゲームの登場人物)が新しい✕✕(技や武器)をゲットした!これでめっちゃ強くなるよね」
この時、私は彼の家族であり、幼いころから彼を見ている母でもあるので、
「へぇ!よかったじゃん、ところで(そもそも)その○○ってどのゲームにでてくるの?」
「へぇ、どんな武器?ちょっと見せてよ」
などと、手慣れた対応をするのですが、その度に不安になります。
これ、同じようにお友達にやってないかな・・・?だとしたらお友達にも引かれることが多いだろうな・・・。相手がたまたまゲーム好きか、「何それ、そんなゲーム知らん」とはっきり言ってくれるならまだしも、そもそもゲームの話だとも分からずに、興味が無いままずっとこの話を聞かされる子がいたとしたらかなり苦痛だよね・・・。
相手の反応を伺う事が完全に欠如されているこの行動。
妹に「そんなのよくわかんないよ!」と指摘されたりということはありますし、
私や夫も「そのゲームはやったことが無いから、やったことが無い人にはもうちょっと詳しく教えてくれないと話についていけないよ」
などと声掛けはしているのですが、基本的に幼い頃から変わらず、ずっと続いています。
料理は食とのコミュニケーション!
「何か空気を読む訓練としていい方法はないかなぁ」
ある日私は夕飯の支度をしながら、ふと思い立ちました。
「簡単な料理をしてみるのはどうだろう?」
料理というのは食材との対話だと考えることができます。
例えば、卵焼きやオムレツ、目玉焼きなどの卵料理。
一見シンプルで簡単に見えますが、火加減や丸めるタイミング、加熱時間を見計らうなど、卵の様子を確認しながら素早く判断する必要があります。
突飛なアイデアだとは思いますが、何かを注視して観察し、その状況に合った対応をしていくという意味で、料理というのは「空気を読む」練習に繋がるのではないかと考えました。
「人とのコミュニケーションも大事だけど、それは学校や放課後デイ、家庭等で十分行っているはず。料理という別の角度から『相手の様子を伺うコミュニケーション』を学ぶことができないだろうか??」
「今まで、不器用な息子に、火を使わせることを嫌厭していたけど、そろそろ簡単なものなら取り組ませてもいいのでは・・・?」
「発達障害を持っていても、いつかは一人で自活していけるように、料理を通して生きる術を身に着ける事もできるだろうし・・・。」
と、色々考えた末に、さっそく休みの日に息子と娘(=保育園年長の妹)に声をかけ、大好きな卵焼きをそれぞれ一から作ってみることにしました。
声掛けしながら、料理をする息子を見守る
もともと料理に興味があり、いつも私が卵焼きを作るところを横で見ていた娘の方は初めから自分ひとりでできるのが嬉しくて、エプロンまで着こんでおおはしゃぎ。
意気揚々と卵を割り入れ、調味料を入れて混ぜていきます。
対して息子は、以前から「料理は楽しそうだけど、不器用な自分にはできそうもない。失敗するのも嫌だし。料理は大人にしかできない」というような認識を持っていたようです。
「失敗したと思ったらお箸でぐちゃぐちゃにかき混ぜちゃって、スクランブルエッグにしちゃってもも食べれるんだから大丈夫」
「何回でもやり直していいよ。どれくらい火を通したら卵が固まるのか、実験だ」
と声掛けし、妹と一緒にやるということで少し乗り気になってくれました。
卵液を作るまでは特に問題なく二人でわいわいしていましたが、フライパンに火を入れ、いざ卵を焼いていくというところになるとちょっと緊張。
みんなで確認しながら、作業を進めていきました。
「まず油を敷く。初心者は多めに入れた方がくっつかない」
「そして火をつける。卵焼きはすぐ火が通るから、はじめから最後まで弱火でいいよ」
「油をフライパン全体になじませる。卵をお箸で取って、ちょっとだけフライパンの油の上に落とす。
「しゅわしゅわしてきたら、卵液の半分を入れて。半分だよ!だいたいでいいから」
「ここが肝心なんだけど、卵の顔をよく見て!少しずつ卵液のふちが白く膨れてくる感じ。こういう風になったら巻き始めて。うまくできそうにないと思ったら、一旦フライパンを火から離しながら、ゆっくりやっていいんだよ。火を止めてもいい。」
こんな感じで、声がけしながら、息子に卵焼きを作らせます。
実際には「巻く」ということが結構難しく、「たぐり寄せる」に近い感じになりましたが、「良い感じ良い感じ、大丈夫」と声掛けし、手助けせずはせずに見守りました。
手料理を作る=小さな成功体験
2回目の卵液を流し込んで、その手繰り寄せた卵の塊をほんの少しだけでも巻くことができた時、息子はとてもいい表情をしていました。
いつもなら、失敗しかけるとベッドにもぐりこんだりして、暫く気持ちを落ち着かせないと次に進めませんでしたが、こと料理に至っては、そういうこともなく楽しそうです。
お世辞にもきれいとは言えませんでしたが、スクランブルエッグではない卵焼き的な形状のものができあがりました。
一人で一から作った初めての料理は、彼にとっては「小さな成功体験」という名の戦利品でした。料理は息子の自己肯定感を高めてくれました。
料理も人も相手のことを考えることが大切
嬉しそうに、ひとしきり食べ終えてから、息子は言いました。
「なんか楽しかったからまた卵焼きを作りたい、どうやったら成功するのか分からないけど 今度はもっときれいに作れるかなぁ」
そこで、私はこう言いました。
「卵焼きを作る時、卵のお顔をよく見て判断するのが一番大事よ。
卵に火が通り過ぎていたらもう、丸めることはできない。逆に、火が通ってなくてどろどろの状態でも巻けない。ちょうど良いタイミングを見計らって丸めたり、丸めてる最中でも火が通り過ぎたら、火を消したり、火に近づけたり離したりしながら卵が固まる時間を調節していく。
お母さんは、料理っていうのは誰かと話をする時に似てると思うんだよね。
誰かと話す時さ、その話題について知ってるかな、興味あるかな~、とか考えながら話すやん?
もし相手が興味がなさそうだったり、イヤそうだったら、その話を辞めるとか、その子が好きそうな別の話題をふってみるとかさ、やっぱり相手の事を思いやりながら話をするやん?料理も同じだよ。卵をお友達だと思って、卵をよろこばせる為にはどうしてあげたらいいかなぁって、考えながらやってみるといいんじゃないかな」
それからまた、気が向くと、息子は卵焼きを作っています。
なかなか外出が難しく、家でできる楽しみを見つけるしかないという現状も、彼の料理デビューを後押ししてくれたような気がします。少しずつではありますが、火加減や丸め方など、上達しています。
最近では、卵焼き以外の別の料理もチャレンジするようになってきました。例えば、ホットケーキミックスを粉から配合して作り、ホットケーキを焼いてみたりしています。
料理を一緒にすることで、親子のコミュニケーションも増え、「料理を完成させる」という息子と同じ目標を持つことでコミュニケーションにも良い意味での変化がみられました。
「空気のよめなさ」を改善するために始めた試みでしたが、料理そのものが息子の成功体験になったり、親子の新しいコミュニケーションが生まれたりと、いろんな良い効果が見られました。
今後も時間がかかるとは思いますが、「卵の顔を見て、今どうすればいいか判断する」という料理の訓練が、相手を思いやること、空気を読むことにゆるやかに繋がり、やがては日々のコミュニケーションに活かされる日がくることを願っています。
コメント