私には現在、小学校3年生の長男よしお(仮名)がいます。
よしおは、年少の頃、自閉症スペクトラムのアスペルガー症候群と診断されました。さらに、小学3年生に入るとADHD(注意欠如・多動症)の診断が追加されました。
そんなよしおが、今、学校生活を送る上で一番苦労していることは
授業に参加し続けること
です。
この記事では、私の経験した苦労や、息子のために実践・改善したことなどの生の実体験を紹介していきます。
授業を抜け出して本を読み始めてしまう癖
先生が板書で後ろを向いている隙があると、よしおはふらっと立ち上がって、教室の外に出てしまいます。
行く場所はいつも決まっていて、階段裏にある学級文庫。誰もいない場所で、床に横になり片っ端から本を読むのが日課になっています。
なぜ授業を抜け出してしまうのか、よしおに聞いてみると、
「教室をでていくのは悪いとは思うけど、どうしても本が読みたくてでていってしまう」
とよしおは言います。
一方で、担任の先生からはこんな報告をいただきました。
「日に日に、受けられない授業が増えています。3年生からは、どんどん勉強も複雑になっていくので、学習面の遅れが心配です。かと言って無理に教室に引き留めても、大声が出てしまったりして授業がストップしてしまいます。どうすればよしお君が心地よく過ごせるのか悩んでいます。」
担任の先生から「授業を抜け出した」という連絡を受けるたびに、「またか・・・」という残念な気持ちでいっぱいになります。
かといって、よしおに改善させる方法も簡単に見つかりません。
何度も何度も言い聞かせても、効果があるのはその当日、良くて翌日ぐらいでその後は全く改善されません。
さらに難しいのは、よしお自身が授業を抜け出すことが悪いことだという自覚をちゃんと持っている点です。ダメだとわかっていても、ふとした瞬間に欲求がこみ上げてきて衝動的に動いてしまうようなイメージなのかもしれません。
しかし、絶望してばかりもいられません。
よしお自身に「授業を抜け出すのが良くない」という自覚があったので、「少しでも良さそうだと思うものを試してみようよ」とよしおと一緒にいろいろとやってみることにしました。
薬を服用してみた
まず一つ目に試してみたことは、薬の服用です。
ちょうど小学3年生になってADHDの診断を受けた際、医師との相談の末、ストラテラという多動や衝動を抑える効果のあるカプセルの薬を処方してもらいました。
日本では現在、ADHDのお薬として処方されるのはストラテラ、コンサータ、インチュニブの3種類です。中でもストラテラは即効性はなく、効果が安定するのに1か月半から2か月かかりますが、その分効果も副作用も穏やかで、依存性が比較的少ないのが特徴です。
今現在、服用から約1か月程経過しました。
飲み始めて1~2週間は、副作用のせいなのか「お腹が気持ち悪い」と言っていたよしおでしたが、吐くまでには至らず、1か月経った今は特に副作用を感じることもなくなりました。
一方で、学校での様子も、始めの3週間ほどは特に変化はありませんでした。
担当の医師も、服用から2週間経過した頃の診察で
「よしお君はADHDよりも自閉症の特性の方が強いようなので、ストラテラはあまり効かないかもしれません」と話していました。
ストラテラに本人以上に異常な程の期待をかけていた私は、正直がっかりしました。
よしおに聞いてみても、
「よくわからないけど、忘れ物は減った気がするような・・・」
はっきりとした効果は感じられないのでした。
しかし、3週間が過ぎたあたりの週末、担任の先生から一本の電話が。
「ここ数日、よしお君はとても落ち着いていますよ!授業にも参加できることが増えました。お家で褒めてあげて下さいね」
学校から電話がある時はいつも、よしおが学校でトラブルを起こした時でしたが、この時の電話は小学3年生に入ってから初めての嬉しい知らせでした。
知らせを聞いた時は、よしおが放課後デイサービスに行っている時間でしたが、とても嬉しくて早く息子を抱きしめてあげたい気持ちでいっぱいでした。その晩はとてもいい気持ちで眠れた事を覚えています。
ただ、薬を飲むだけでは、落ち着いた状態が持続することはないようです。やっぱり授業を抜け出して本を読んだり、保健室や別室で勉強することもあります。
改善は見られましたが、今はまだコンディションに浮き沈みがあります。
イヤーマフを使って雑音を減らす
薬の効果を確かめるためによしおの様子を見ている中で、1つわかったことがあります。それは、静かな場所なら、薬を飲み始める前よりも物事に集中力して取り組めているということです。
よしお自身のコンディションだけではなく、周囲の騒がしさも授業を聞けるかどうかの大事なポイントで、耳からの刺激がない場所ならば、よしおは集中できるようなのです。
これは、雑音があると集中できないと言うのはADHDのよくある特徴でもあります。雑音が全て雑音として処理されずに、本来聞きたい音(授業)などと同レベルで耳に入ってきてしまう現象が起こっているのです。
教室では視覚的な刺激を最小限にするため、よしおの席はいつも一番前の廊下側でしたが、これでは音の刺激をさえぎることができません。
それまで、よしおが聴覚過敏だとは思っていませんでしたが、ですが、よくよく考えてみると思い当たるふしもないわけではありません。
自分の教室がうるさいときはもちろん、例え自分の教室が静かでも隣りの教室で理科の実験などで騒がしいと、よしおはキーキーと金切り声を上げ、不機嫌になり、授業に集中できないこともあったのです。
家でもリビングで勉強するよりも、雑音の少ない寝室で勉強したり話をしている時の方がよしおは集中していました。
今のよしおの状況や過去の経験を振り返り、私は「授業中、雑音が入らないようにイヤーマフをすれば、もっと授業を集中して受けれるのではないか?」と考えました。
それと同時に、もし聴覚過敏が原因の1つなら本人も相当苦しかっただろうな・・・とも思いました。
放課後デイサービスにあるイヤーマフを時々使うことがあったので、さっそくそれと同じイヤーマフを購入して、学校で使ってみることにしました。
実際に私も試しにつけてみて「本当にこれで雑音がとれるの?」と疑問に思いましたが、よしおが言うのは「それ程高い防音効果じゃないけど、耳をふさいでくれている感覚は、落ち着く」ということでした。
防音効果は高くないので、授業中の先生の声もしっかりと聞こえます。
イヤーマフの意外な効果
イヤーマフは意外なところでもその効果が見られました。
イヤーマフをしていると、自分の鼻歌や独り言、叫ぶ声がダイレクトに自分の耳に響いてくるので、よしおが自分の声がうるさいことに自覚を持つことができました。
「周りのみんながこんなにうるさい思いをしてたなんて、知らなかった・・・」
自分のうるささを自覚して、ドン引きしてしまったよしおでした。
イヤーマフは音が気になる時だけつけたり、気分によってつけないこともありますが、次第に、授業中に落ち着いていられることが増えてきました。
薬とイヤーマフによって、授業中の様子に改善は見られたものの、よしおの苦しみにもう少し早く気づいて対策をしてあげれば良かった・・・と、後悔の気持ちも残っています。
また、雑音の問題を考慮して、家で勉強するときはリビングではなく、今後は別室で勉強させることも検討しています。
今後の課題と子育てへの想い
さて、そんな風にあれこれと試行錯誤をしているうちにもうあと半年で4年生です。大分反抗的な態度を取ることも増えてきました。
放課後デイでも、「『トイレの後手を洗って』と指導員に注意されただけで反射的に『なんで洗わなきゃいけないの?』と言って、先生とケンカしたんだ』と帰宅してすぐに自分から報告してきます。
「洗わなきゃいけないのは正しいよね?」
「うん」
「でもどうしてそんな風に言っちゃったんだろう?」
「分かってるのに言われたからイラっとして言っちゃったんだ」
悪いとわかっていても自分の欲求に対して衝動的に動いてしまうのは、授業を抜け出すとき意外にも頻繁にあるので、今後もまだまだ工夫が必要となりそうです。
ただ、一見以前とは変わらない問題点の中にも、成長を感じる部分はあります。
叱られた事を自分の中で問題視して、先生から親に報告が来る前に自分から報告し、親子で話し合うようになったのです。そういう小さな成長も、見逃さずに丁寧に褒めていきたいと思います。
また、「母親が一番子供の事を分かっているはずなのに」と自分を追い詰めるのもやめました。親のメンタル維持が、発達障害の子育てには本当に大事だと思うからです。
学校の先生、放課後等デイの先生、友人、また医師など、よしおを取り巻く人々と情報を共有することで、気づきを得、また助けてもらいながら、総合的に判断して対策を考えればいいんです。
それがうまくいかなくても、また別のやりかたで。
すぐには改善しないので、慌てずに長い目で見守って・・・。
第一子のよしおを、試行錯誤で育てているうちに私も少しずつ世間に育ててもらっているんだなと、実感する今日この頃です。
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